モデルやタレントを探すキャスティングは、これまでどうしても時間と手間がかかるイメージが強かったですよね。
大量のプロフィール写真とデータを見比べて、「このモデルさんはいいけど、ちょっとイメージが違うかも…」なんて試行錯誤を繰り返す毎日。
とくに大規模な案件だと担当者が何日も、場合によっては数週間も頭を抱えることもあります。
ところが最近、AI(人工知能)を使って、モデル探しを驚くほど効率化しようとする動きが広がっています。
今回は、その先頭を走るドイツのモデル事務所「SHOWCAST(ショウキャスト)」の事例をご紹介。
わずか数秒で“理想のモデル”をピックアップしてくれるという革新的なシステムを、できるだけわかりやすくお伝えします。
Contents
SHOWCASTが開発したAIキャスティングとは?
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画像やコンセプトを入力するだけでマッチング
SHOWCASTが取り入れたシステムは、一言で言うと「AI搭載のモデル検索エンジン」です。
普通なら「身長〇cm以上」「髪色は明るめ」「クール系の顔立ち」など、条件を細かく指定しながら手作業で探しますよね。
でもこのシステムは、イメージ写真やキャンペーンのコンセプトをAIに読み込ませるだけで、数千人もの登録モデルからサッと候補をリストアップしてくれるんです。
たとえばビューティーブランドの新商品キャンペーンを考えている場合は、ブランドイメージに合った写真をAIに見せるだけ。
「こんな雰囲気のモデル」をAIが瞬時に理解して、何百、何千のモデルの中からベストマッチを提案してくれます。
実際にはアルゴリズムが顔の特徴や雰囲気の要素を分析しているとのこと。
属性にこだわらない「ボーダレス」な人選
ショウキャストのAIマッチングが面白いのは、性別や人種などの属性をあえて“必須条件”にしていないところ。
従来は「女性モデルで」「アジア系で」などの条件が当たり前だったかもしれません。
ですが、このシステムではイメージを軸にしているので、思わぬ候補が飛び出してくる可能性もあります。
ここには「アンコンシャスバイアス(無意識の偏見)をなくしたい」というSHOWCASTの想いも感じられますよね。
従来のキャスティングにあった課題
時間と労力がかかりすぎる
モデル探しはとにかく時間がかかる。
プロフィール写真やコンポジットを一つひとつ確認していくうちに、あっという間に何時間も経過…という経験、業界関係者の方なら「あるある」と思うはずです。
さらにクライアント側が「もうちょっと他の候補も見たい」と言い出せば、担当者は追加作業に追われ、気づけば数日から1週間以上が過ぎていることも。
偏った先入観が入るリスク
「このブランドは絶対にクール系」「このアイテムは若いモデルでないと売れない」というふうに、過去の成功体験から無意識に思い込んでしまうケースも意外と多いものです。
もちろん、いわゆる“ハマり役”を見つけ出すことが重要ですが、先入観が強いと、新しい才能に気づけないリスクも抱えています。
AIキャスティングがもたらすメリット
時間短縮でプロジェクトがスピードアップ
最大のメリットは、やっぱり「時短」です。
SHOWCASTでは、AI導入によって数日~数週間かかっていたキャスティングの初期工程が数秒に短縮されたというから驚き。
もちろんAIが提案したモデルの中から最終的に人間が判断・交渉する工程は必要ですが、最初の“候補探し”が一瞬で済むのは相当なインパクトです。
特に大手クライアントの仕事や、複数プロジェクトを同時に進めるケースでは、これはかなりありがたい進歩ですよね。
担当者の負担が減るだけでなく、モデル側にとっても早めにスケジュールが確定するメリットがあります。
多様性を促し、新たな才能に出会える
AIが属性情報ではなくイメージを基準にモデルを選ぶことで、今まで注目されなかったモデルが候補に上がるケースが増えそうです。
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ショウキャストの担当者いわく、実際「こういうモデルもいけるんだ」とクライアントが想定していなかった提案が出てくることもしばしばあるとのこと。
こうした“思いもよらない出会い”こそ、AIの強みかもしれません。
従来は「このタイプのモデルじゃないと合わない」という思い込みがあったとしても、AIの結果を見てから「あ、これもアリだな」と柔軟に考え直せる。
結果的にキャスティングの幅が広がり、業界全体のダイバーシティ向上にも一役買う可能性があるんです。
AI活用で気をつけたいポイント
あくまで“ツール”としてのAI
「AIがすべてを決めてくれるから、人間はいらなくなる」と思うのは早計です。
AIはあくまで大量の候補を効率的に拾い上げるツール。
最終的に「このモデルが本当に合うのか」を確認し、意思決定するのは人間のクリエイティブな目ですよね。
それに、モデルに求められる要素は顔立ちやスタイルだけではありません。
撮影現場での対応力や演技力、コミュニケーション力など、写真やデータだけでは見えにくいポイントも考慮しなければならないでしょう。
データの偏りやアルゴリズムの透明性
AIといっても魔法ではありません。
もともと登録されているモデルデータが偏っていれば、AIの提案も当然偏ります。
たとえば、ほとんど欧米系のモデルばかりデータベースにいる状態で「アジア系のニュアンスを含んだ雰囲気のモデルを探して!」といっても、満足いく結果が出ないかもしれません。
さらに、アルゴリズムがブラックボックス化すると「どういう基準でこの人が選ばれたの?」とクライアントが納得できない場合もあります。
そうなると、担当者はAIの結果をうまく説明するスキルが求められるでしょう。
モデル業界が迎える“次のステージ”
これからは“探す”から“選ぶ”へ
AIが候補のリストアップを一瞬でやってくれるようになると、キャスティング担当者は“探す作業”から少し解放されます。
その分、「一番この企画に合うのは誰?」を最終的に見極める目利き力、そしてクライアントやモデルとの交渉・調整といったコミュニケーションスキルがより重要になるでしょう。
いわばキャスティング担当の仕事は、事務処理的な側面よりクリエイティブやマネジメント面が比重を増していく可能性があります。
これは単なる効率化ではなく、業務内容の“質”そのものを変える大きな変革かもしれません。
他の事務所やプラットフォームにも広がる?
SHOWCASTの成功を見て、同業のモデルエージェンシーやキャスティングプラットフォームが似たようなAIツールを導入してくることも十分考えられます。
今後数年で、モデル業界全体がAI活用をスタンダード化していくかもしれません。
すると、クライアントは「AIで一瞬で探せるなら、ウチも試してみよう」と取り入れやすくなり、各事務所は「他社との差別化はどうするか」をさらに考えるようになるでしょう。
もしかしたら、キャスティング以外の業務(スケジュール管理や売上予測など)にもAIが活用される時代がすぐそこまで来ているのかもしれません。
まとめ
SHOWCASTの取り組みから見えてくるのは、モデルキャスティングの未来像です。
AIが膨大なデータを一瞬で分析し、今まで見落としていたモデルを発掘してくれる。
これによって時間短縮だけでなく、意外な組み合わせが生まれたり、ダイバーシティが促進されたりと、業界に新しい風が吹き込みそうです。
もちろん、現場での最終決定はこれまでと同様に人間が行います。
AIが提案したモデルをどう生かすか、どんな撮影や演出を仕掛けるかは担当者次第。
ここにこそ、人間のクリエイティブな力が発揮される余地がありますよね。
「AIなんて怖い」と構えるのではなく、「AIのおかげで今までより早く、広い視野で人材を探せる」と前向きに捉えれば、モデル業界はさらに発展しそうです。
今後、他のエージェンシーがどんなAIを開発・導入していくのかも見もの。
“モデル探し”の概念が大きく変わる時代が、もうすぐそこまで来ています。
【参考リンク】
これが「実は男性モデルの方が、このキャンペーンにはハマるかもしれない!」といった驚きを生むこともあるんだとか。